元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
今回は2021年08月23日 税のしるべからです。
政府税制調査会の議論の中で、個人事業主の記帳水準の低さが問題になっている模様です。ここで言われるひどい事例では、5年10億の売上で帳簿一切なし、というものもあった模様です。
とりわけ重要なのは、帳簿がないため税務調査はもちろん、重加算税の賦課が困難なことも指摘されていることです。税務実務においては、帳簿というスタート地点がないため、「隠ぺい仮装」の境界が分からないという逆説的な結論が導かれます。帳簿に売上が書いていなければ、その原因を探れば「隠ぺい」を立証できますが、帳簿もないと何をもって「隠ぺい」なのかが分からないことになります。
こういう訳で、記帳水準の弱い個人事業主の税務調査では、重加算税が逆にとりにくいと税務署では言われます。
政府税制調査会は立場が弱いため、実際の翌年度の税制改正を決める与党税制調査会で提言が採用されることは多くありませんが、これは採用される可能性も大きいかもしれません。加えて、新政権は財政健全化を志向しており、厳しい改正も実現させやすいかと思います。
消費税に倣い、「帳簿がないと経費を認めない」といった措置は、大部分の納税者が課税事業者になるインボイス制度も入ることもあって、実現してもおかしくないように思います。インボイス制度下においても、帳簿の保存は仕入税額控除の要件のままですから。
なお、所得税において記帳の義務はすでに設けられていますが、青色申告の65万円控除を受ける事業主を除き、総勘定元帳を作ることは税理士実務でも多くないように思います。となると、仮にこのような改正が実現すれば、実務に大きな影響を及ぼし得る可能性もある訳で、次回以降の税制改正大綱は要注意と言えそうです。
【税務調査対策と税法解釈】2021年08月23日 『税のしるべ』より
2021/10/07